かなり遠い所だと運転手は話してくれた。

朝一番の飛行機で高知空港に降り立った私たちは、宗田鰹節日本一の産地、足摺岬の土佐清水を目指す。レンタカーの運転をお願いするのは、鰹節問屋の若社長。ときどき白装束のお遍路さんを見かけると、ああ、四国にいるのだと実感する。昼食をはさんで4時間ほどの道のりは、ひたすら鰹節の下勉強と世間話。
鰹節はその名のとおり、鰹からつくられる。だから本節ともいう。しかし、その他の魚からも「節」はつくられる。宗田かつお、さば等が代表で、総称して「雑」とも呼ぶ。その名からも推察できるように本節の代替品としての役割から発しているらしい。だから老舗の蕎麦屋は本節一本で出汁をとるとろが多い。

「雑」を混ぜることにより、よいこともある。

本節一本での出汁は、すっきりとしたストレートな旨味を出す。そこに雑を少量混ぜると、旨味に厚みというか、奥行きが広がる。小松庵二代目社長である小松茂は、この節のブレンドに凝る。ほとんど道楽といっていいほど。このブレンドの割合は、冷たい辛汁と温かいあま汁で違う。また季候でも変えている。たとえば夏の暑い時期には、本節を多くすっきりとした味わいに。逆に冬には温かく濃厚さを増すよう雑を増やす。良質の本節に合わせるとなると雑の質にも細心の注意が必要になる。

宗田かつおを「めじか」という愛称で呼ぶのです。

その「めじか」を漁港で競り落とす。トレー1枚に30〜40匹の「めじか」を並べる。トレーを20枚ぐらい重ねて、大きな風呂のようなところで50分から1時間半煮る。手作業で頭と中骨を取り2枚にする。1日6時間で1週間ほど燻す。1日天日干ししたあと、カビ付けせずに出荷する「はだか」と、カビ付けとに選別する。
この「はだか」は主に関西方面に送られる。・残りを1カ月、温度28度、湿度95%の部屋に保存すると、自然にカビが生えてくる。月に2〜3回倉庫から出し天日に当てながら4カ月くらい保存。そして出荷となる。

焼酎を飲んで、ディスコで踊っているようなもんだ。

生産者が「めじか」を釣るときの漁師の様子を身振り手振りで真似してくれる。確かに酔っ払いが踊っているように見える。ただし一歩間違って海に落ちたら、誰も助けてくれない。一人で海に出るとは、そうゆうことだ。黒潮の上の孤独なダンス。「めじか」と呼ばれる、宗田かつおは鯖科の魚で三十センチ前後の体長。ふつうの魚は、冬になると脂がのって美味しいのだが、「めじか」はその反対。この時期不思議なことに脂が抜ける。これが節にするためには最適な条件となる。だからこの時期の節は「寒めじか」、通称「寒め」と呼び珍重される。その一番最盛期に私たちはお邪魔しているのだ。
煮上がった「めじか」を見て力が抜けてゆく様子を、またお得意の身振りで話してくれる。港から持ってくるあいだはまだわからない。煮て釜から出したとたん「めじか」の表面に脂が浮き上がる。ほんの2〜3日前までとは大違い。このように「寒め」の終了は突然訪れる。それが三月終わりから四月の初めに突然訪れ、あっという間におわってしまうのだ。